[初恋・行進曲]

*4*


おい。


おいおいおい・・・・・・・・・・


マジかよ、お前。


目の前で繰り広げられる、攻防戦―――もとい、一方的な戦略に。


やられた・・・・・・・予定外だろ・・・はぁ・・・。


予定外の、行動に―――いや、もしかしたら想像はついていたかもしれない行動に。


思わず、ため息をつかずにいられない。


・・・・・教師が脅すんじゃねぇよ・・・・・って言うか・・・


そんなに言いたくないんだ・・・・へぇ。


その行動が逆に自分の憤りを煽って―――ムカついた心が、胸の中を占めていく。


だから。


チラっ・・。


4人を追い出した後、自分を伺うように見た久美子を、冷たい眼差しでその視線を受け止めると。


・・・・・・・・・・絶対言わせてやる。


そう、再び心に誓った。


――次の瞬間。


「・・じゃあお前もっ・・・!」


そう、久美子の声が響いた。


――から。


ガタン・・!


その動きを止めるように椅子を後ろに引いて、静かに立ち上がると。


ガタガタ・・・・・・・・


目の前に置いてあった机と自分の机を向かい合わせにして、二人用のスペースを作って。


「・・・・・・・座れば。」


顎で向かいの席を指しながら、低い声で久美子に言ってのけたのであった。





そして―――数分後。





カタカタ・・・


モゾモゾ・・・・


いまだ落ち着かない久美子の姿が、目の前に、ある。


・・・・・・・ったく・・。


「・・・・・・・・・・・で?」


このままじゃいつまでたっても埒があかない―――そう、思ったから。


「・・・・・・・ふぇっ・・!?」


自分から、促していく。


・・・・・何その顔。


ビックリとしたような、どうしていいかわからないようなその顔に――また、不機嫌が募る。


久美子の、初恋の男。


というよりも―――初めて心を許した男。


これが、ハッキリするまで―――・・・・・・・


・・・・・・逃がさねぇぞ、絶対。


聞く前にも思ったが、なんて自分は心が狭くてガキなんだと思う。


でも。


もう、ここまで来たからには。


さっきの久美子じゃないけれど――・・・・・・・・・・


ガタ・・・・


静かに、再び椅子から立ち上がり、久美子のほうへ近づいていく。


「・・・・・・へっ・・・?」


どんな手を使ってでも。


「・・・・・言わせるから。」


ボソ。


そう、耳元で甘く囁いて。


「ぅゃっ・・!」


ポン。


その体を椅子から持ち上げると、前にある机に座らせる。


カタン・・・・


そして――自分は久美子の前に座って。


「あ、ちょっ・・・・・・・!!!」


そのまま、久美子の胸元に顔を埋めるように、抱きしめた。


・・・・・作戦、開始。




「なぁ・・・・・・・・」


「・・・・・・っぇ・・?」


フワフワとした胸の感触を頬で感じながら、目的の相手を上目遣いで攻めていく。


「お前の・・・・・話、聞かせろよ。」


「えっ・・・・・・・・!!」


密着した頬に、ドキンとした久美子の鼓動が伝わってくる。


いつも以上に、早い鼓動。


緊張して、色んな考えが渦巻いて―――目の前に、自分に。


ドキン、ドキン・・・・・・


鼓動が、震えている。


「あ・・・・・・・・・。」


自分の眼差しに、真赤になる久美子の顔。


・・・・・・・俺、知ってんだ。お前、こういう風に言われんの弱いのな・・・


ニ、と頬が緩みそうになるのを必死で絶えて、次々に言葉をぶつけていく。


「なぁ・・・・早く。」


「あっ・・・・・でも・・・・・・」


・・・じれったい。


「お前が―――――・・・初めて好きになった男って、どんな奴?」


声色は、優しく。でも心はムカついたまま。


本当は、このまま押し倒して――甘い囁きと共に聞き上げるのもいいかもしれないけど。


・・・・・・・その状態で聞いたら・・・・俺また切れるかも知れねぇし。


知らない、存在の男に。


だから―――――・・また、久美子を悲しませたくはないから。


じれったいけど、この、方法で。


いこうと思った―――・・・・・・・けど。


「あ・・・・・・の・・・・・・っ」


「えっと・・・・・・・・・」


「・・ど・・・どうしても言わないと・・・駄目か・・?」


「・・・ダメ。」


「・・・・・っ!!」


中々答えなくて、でもますます赤くなっていく久美子の顔に。


・・・・・・もしかしたら今の状態でも切れるかも知れねぇ・・・。


なんて。


不安になって、来る・・・――から。


ムカツキが、また前面に出てきてしまう。


・・大体・・・・・そこまで言いたくねぇほど・・・他のヤツ好きになったわけ?


・・・ムカツク。


ムカツキが、不安に。


不安が、焦りに変わって。


「・・・・・・おい。どうなんだって聞いてンだよ。」


さっきよりもちょっと強く、低くなった声が自然と漏れる。


「・・・・・・・っ」


「・・・言いたくねぇのは・・・・俺よりも好きだったとか?」


「ちが!・・・・・ぁっ・・!」


自分の低い問いかけに、パッと口を押さえるけれど。


・・・・・・遅ぇよ。


一度発してしまった言葉はもう、戻らない。


「・・・・・違う?何が。」


「あ・・・・だから・・・・・・・・・・」


「・・・・・・言えよ。どんなヤツ?」


もう、ムッとした声色が押さえられない。


・・・・・どんな奴なんだよ。


「あ・・の・・・だからな、その・・・・・・・・・」


「・・・久美子。」


ビクっ。


自分の言葉に、久美子が羞恥で震え上がる。


・・・お前、分かってねぇのな。そういうの、もっと俺を煽ってんだぜ?


「う・・わ・・わかった。言うから・・離し・・」


「離さない。このままで言え。」


「・・・・・・・・っ!!」


ドキン、ドキン、ドキン・・・・・!!


久美子の胸の鼓動が、さっきよりも格段に早くなってくる。


・・・・・くそっ・・・・・。


見知らぬ相手に嫉妬―――なんて、情けないけど。


知りたい、と思ったのは自分だけど。


ここまで、久美子が恥かしさに頬を染めて鼓動を早くするなんて―――・・・・・


はっきり言って、想像していた時よりも今の方が胸が痛い。


間近にした分、知りたくないことが目の前にある分、傷が大きくつきそうで。


だから――・・・・・・・・・・・


「あの・・・あたしの初恋は・・・・・・・・・・」


恥ずかしそうに、久美子がその言葉を唇から出したとき。


ドキ・・・・・・・!!!!!


「・・・!!!」


自分の心臓も、止まりそうに、なった。



きっと、他の名前を言われると思ったから。


自分は知らない、過去の男が――――・・・・・出てくると。


そう、思ったから。



でも――・・・・・・



「・・・・・・まぇ・・。」


「・・・は?聞こえねぇよ。もう一回、言え。」


恥かしいのか、ごくごく小さい声で言うから、イラだった声でもう一度聞き返す、と。


「・・・・・・・・・まえ・・って・・お前なんだよ!バカァっ・・・・!」


「・・・・・・・・・・・へ?」


一瞬、呆けてしまう。


今、久美子の、綺麗な唇から、出てきた―――のは。


・・・へ・・・・・・・俺?


自分をさす、その言葉なので、あった。


驚いたその間にも、顔をつけた久美子の胸は―――今までの中で、一番、ドキドキと震えて、いた。



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