[ 口唇から魔法*マジック ] *2* |
・・・・・ホント、バカなやつ。 放課後、久美子を迎えに行こうとした時、偶然あの場に居合わせた。 「・・・キス、したい・・・」 ・・・・・・・・・・は? 思わず陰に隠れていた身を半分出しそうになるくらい驚いた。 何、言ってんだコイツは。 ・・・・・聞いちまったこっちが恥かしいッつの・・・・・ キスしたい、と思った相手は自分しかいない――なんて自惚れだろうか。 でも、久美子と唇を重ねあったのはきっと――恐らく、自分しかいなくて。そう考えてみると、最近の久美子は やたらと自分の方を見ている気がしたが。 ・・・・・・・もしかして、唇見てたのか・・・・・・? うわ・・・・!! ボ、っと音を立てるほどまではいかないが、自分の頬が熱くなっていくのが見なくても分かる。 だって。 久美子が、こんなにあからさまに自分を――・・唇だけだけど、欲したのを見たのは初めてで。 いくら慎と言えど、好きな女からそんな事を言われたならば、顔どころか、色んなところに火がついていく。 「いや、お酒飲みたいなぁって!!」 ・・・・・ばーか。 無理のある、言い訳に、心の中で悪態をつく。本当に23歳なのか、その慌てぶりは・・・と思わず言いに 行きたくなるが、そこは我慢して。 「じゃあ、いきましょう!」 藤山の言葉がもう日も暮れた空に響き渡るのを確認してから、慎は静かにその後へ並び、 店を確認したのであった。 そして、1時間後。 プ、プ、プ、と携帯である人物の元へと電波をつなげて―― 「・・・・・ヤンクミ、いる?」 『・・・・・』 「あ、そ。」 言葉少なめに、あることを確認するとさっさと通話を切断して。 ――さ、行くか。 そっと、3人のいる近くにあった本屋から出ると、待ち望んでいた人物がもう居るであろうその場所に 向かって行ったのだった。 ・・・・さみっ・・・・。 もう、10月にもなると夜の空気は今までとは一変して――寒い。そう言えば久美子も薄着だったな、と チラッと頭の中で思い起こすと、慎の足も自然と速まる。 あ・・・・・・いた。 信号の角を曲がるとすぐその店で、その通りの前に―――久美子が、いた。 「・・・・・ずるい。」 え? 遠くを見ながら、顔を赤く染めながら何か呟いているのが聞こえてくる。 ・・・・何がずるいんだよ。 フッと口元が緩んでいく。さっき、あんなに寒いと思っていたのに、もうそれを感じさせない程心が暖かくなっていく。 そんな風に思うと―――つい、イジメてやろうなんて意地悪な考えがもくもくと浮んできて。 静かに、久美子の後ろに回りこんだ。 「・・・だろ、いつも好きって全身で表してるのはあたしの方が・・・・」 はっきりと聞こえてくるその言葉。久美子の、心の本当の言葉。 ・・・ったく、こいつは・・・・・・。 どうやったら、そんな風に思えるんだよ?自分の鈍さを棚に上げといて・・・よっく言うな、ホント・・・。 俺の方が、お前よりも全身で好きな気持ちを表してる、ッつーの。 ・・・・・・・気付いてないのは、お前だけ。 愛しさと、ほんのちょっと呆れた目で久美子の後姿を見つめながらそう思うと。 「・・・・・・・・そうでもないだろ。」 慎は、やっと出したかった声をポツリと、でもハッキリとした低い声で出したのであった。 「・・・・・・・そうかなぁ?」 まだ、相手は自分に気付いてない。でも、後数秒後には―――。 「〜〜〜〜!!??」 振り向いて、大きい目を更に大きく見開いた久美子の姿がやっと自分の目に入ってきた。 「・・・・・・・・で、何悩んでんだって?」 そう告げると、また更に目が大きく見開かれる。 ・・・・・目ン玉飛び出るぞ、お前。 そんな姿も、可愛いのだけれど。 <<BACK >>NEXT |