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「ただいまぁ〜っ!」 「お嬢!おけえりなさいやし!!」 疲れも疲れとも思えなかった、幸せが回りに溢れる学校での一日を終えて。 「よいしょっと・・・・」 久美子は、一晩を挟んで家に辿り着いた。 ・・・・ふふ。 靴を脱いで、ぎゅっと片方の腕を握り締めながらそっとその場に佇む。目を伏せれば、自分を抱きしめて くれたその人がすぐそこにいるような気になって――――・・どこででも幸せな気分に、浸れた。 物凄く、浸っていた。 だから。 「おう、久美子。」 「・・・・っひゃぁ!お祖父ちゃんっ!い、いつのまに!」 祖父が近くにくるまで、その気配に全然気付かなくって。 ・・・あぁ、ビックリした・・・・! 思わず心臓が止まるくらい、ビックリしてしまった。 「ん、今帰ぇったのか。」 「う、うんっ!あ、昨日は突然ごめんなさい、急に泊まる事になっちゃって・・・」 自分が出したその言葉に、申し訳ない気分になって目を伏せる。 抱かれた、後。慎の家に泊まって――――抱かれて。その、後。 『・・・もしもし・・』 家に、そっと電話を入れた。もう、時計の針は真夜中をさす所で――――― ・・・怒られるかと、思っていた。 でも、そんな事はなくて。穏やかな声で、自分がついた小さな嘘を、そのまま信じてくれた。 『友達の家に泊まる』 そんな、小さな、ウソ。 ・・・・ごめんなさい。 祖父に嘘をついたのは、これが本当に初めてだった。 悲しませたくないから? ・・・ううん。 酷い孫だと思われたくないから? ・・・ううん、違う。 嘘をついたのは、そんな理由じゃなかった。 もっと、極酷く簡単な―――――理由。 ・・・ただ。 ただ――――・・・・・慎、との事を。 知られたく、無かっただけ、だった。 自分がそういう付き合いをしている事も、今そういう風になっていることも。 イヤだった。 知られてしまえば――――・・・・きっと。否が応でも、次に慎がこの家にきた時に、試されてしまう様な 気がした。 例え見知った仲だとしても。 それに。 きっと、自分の家に知られたと分かったら――――――――― ・・・慎の、方が。 自分から、身を引くんじゃないかと。 ・・・信じていないわけじゃないけど。 わけじゃない、けど・・・ ・・・怖くて。不安で――・・・・ だから。 「・・久美子。ちょっと、こっち、こっち。」 「ん?なに??」 おいでおいで、と手招きされて、ちょこんと祖父の横に座る。 「・・大きくなったよなぁ、あーんな小っちゃかった久美子がよぉ・・」 「・・え?」 祖父が言った、傍から聞けば意味もないその言葉に、心臓がドキンと嫌な音を立てた。 ・・・・な、なに・・・? 「そりゃなぁ・・・16年も立てばお前だって、一人前の大人だ。色んな事だって、あらぁな。」 「・・お・・・お祖父ちゃん・・?」 ・・ドキ。 ドキ、ドキ・・。 なんだろう。 なんだか、ヤな予感がする。 もしか・・・・・・・・ もしかしなく、ても。 お祖父ちゃん―――――・・・・・・・・・ 「いつとは言わねぇけどよ・・・ま、会って見るのも悪くねぇなっておじいちゃん思ったのよ。」 ――――――・・知って・・・!! 「・・・・っと。別に久美子を叱ってるわけじゃねぇぞ。えれぇ勘違いすんなよ。ただおじいちゃんはな・・・・ お前ぇが、女になったのが嬉しいだけよ。」 そう言うと、ふわ、と祖父の顔に笑顔が広がった。 「・・・決めんのはお前ぇにまかせるけどよ。」 ・・・・ぽん。 言われて、頭にそっと優しく大きな手の平が乗っかって。 「じゃ、おじいちゃんはもう寝るとするかな。年よりは夜も早ぇからいけねぇなぁっと・・・・よいしょっと。」 はは、と笑いながらそう言った後――――― 「・・・お休み、久美子。」 「・・お・・お休みなさい・・・・」 ・・パタン。 祖父の部屋に繋がる、扉が閉まる。 後には。 「あ・・・・・・」 シーン、と居心地の悪さを感じる空気だけが、その場に漂って、いた。 |
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