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パタ、パタ、パタ・・・ お・・・重い・・・。 足が、重い。 結局チャイムが鳴ったあと、道具一式を持ちっぱなしだった資料室から3−Dの教室へとやってきた。 その距離、時間にして約1分。 その、短い距離でさえも――――――・・・これから50分間あの慎と一緒だと思うと、胸が苦しすぎて足取りが重くなってしまった。 「はぁ・・」 がっくりと項垂れた頭を持ち上げれば、そこは3−Dのドアの前。 ・・だ、大丈夫。 久美子、気にするな! 気にしたら負け、と自分に言い聞かせて、いつもの気合を――――! 「ふぁ・・・ファイト、オっ・・・」 ・・小さい声で、呟いた。 「だっ・・・ダメだこれじゃ!気合いよ久美子!」 ガタ!!! 無理やり自分に喝を入れて、勢いよく扉を開ける。 「そ、それじゃあ、じ、じ、授業はじめまーす!!!!!!!」 ビクビクとして、真っ直ぐ前だけを見ながら大声で張り上げた始まりの言葉。 でも 気合だけじゃ、何ともならないことを 身体は、知っていたようだった。 だって―――――― 「はっ・・・・はじめ、ま・・・!!!!」 ドキドキとしながら右の方へと身体と視線を回転させた途端、入り込んできた慎の姿。 と。 ・・・あっ・・ 絡まった、視線。 に。 プラスされて――――――― 『久美子』 口唇が、そうかたどったのが。 目に、入れば。 「・・・・っ!!!!!」 ドキドキドキドキっ・・・・!!!! 心臓が、口から飛びでそうなほど鼓動を早めて、目が眩みそうになる。 ど、どうしようっ・・・・・! このままじゃ、授業なんてっ・・・・・ でも 自分は、先生、せんせ・・・い・・・ どっちつかずに揺れる気持ちが、顔を真赤に染め上げて教壇の前で久美子を立ちすくませた。 「やんくみー?」 「おい、どーしたんだよー」 ・・ふぇ・・。 ・・前、向けない・・。 他の生徒から声が上がっても、どうしても元気に振舞う事が出来ない。 皆、自分の事を見てるのが分かる。 でも でも、それ以上に―――――― 慎の、視線が。 身体を貫いて、自分を黒板に縫い付けているみたいに身体が動かなくなってしまう、のだ。 「どっか具合悪いのヤンクミ・・・・?」 ・・・悪くない。悪くない、けど―――――― 「・・・・なにやってンの、やんくみ。」 「・・・!!!!!」 ・・・ひゃ・・・・!! ドキン・・・・! 視線以上にその声が、自分をさらに追い詰めた。 ・・・出来ない・・授業っ・・・! これ以上ここに・・・・ ―――・・いられ、ない・・・! 「ご、ごめんっ・・あたし、ちょっと保健室に・・・」 「え!?マジで具合悪いの!?」 上がる声に、少しだけ胸が痛む。 ごめん・・・・! 「ごめんっ・・・・今日、自習!」 それだけが、精一杯言えた言葉だった。 ガタン!!! 来た時と同じようにして、教室の扉を開けて廊下に飛び出す。 「っはぁ・・・・!!!」 ひんやりとした廊下の空気を、胸に一杯吸い込んで。 も、やだっ・・・・・・! 久美子は1人、資料室へ続く廊下を再び走り出していたの、だった。 |
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