[メールでLOVE ME!]
=2=


やばいって・・・・・・・・・・。本気でやばいって・・・・・。

授業終了まであと5分。千尋は、既に途切れたメールの内容をもう一度読み直しながら、思い空気を身に纏わせてガックリと項垂れていた。

『もうすぐだね。』

最初、ハクから入ったメール。

もうすぐだね、とは、お昼のことを示しているものだった。

いつもだったら、ここですぐにでも『うん!楽しみ!』だのなんだのと似たような返事を返していたのだが――――今日は、ちょっと違っていた。

『そうだね!あ、今日はちょっとお昼は一緒に出来ないかもしれないの!先生に呼ばれちゃって、遅れちゃうから今日は別々に食べよう?ごめんね!』

うーん・・・と、頭をひねってようやく打ち出した言葉がコレで。文字だけだから、どうにかこうにかハクを誤魔化せるものだと思っていた。

誤魔化したい、その理由――――――――


実は、4時間目の授業が始まる前。



「荻野!」

「ほぇ?」

クラスメイトの男の子に、突然呼ばれて千尋は後ろを振り返った。

「なーに?」

その男の子は、クラスでも仲のいいグループにいつも入っている、いわば仲間で。今呼んだのも、何かくだらない事でも言うのだろうと思って何気なしに後ろを振り向いたのだ。


が。


あり・・・・・?なんか、顔赤いな・・。

「熱でもあるの?顔・・・赤いよ?」

別に何を思ったわけでもなく、本当に思ったことをポロっと口に出しただけなのだが。

「あっ・・そ、そうか!?くそー・・・カッコワリ・・・」

・・・・・は?

千尋にはその少年が呟いた真意が全くわからない。

「別に・・・・カッコ悪いのは今更じゃん。」

あはは、と笑って言いながらその少年の顔を再度見上げると――-さっきよりも、もっと顔を赤くしながら自分の方を真剣に見ている。

・・・・・え?

「お、荻野!」

「はいっ!?」

ごくん。

知らず知らずの内に、その勢いに息を飲み込んでしまう。

「昼休み――――・・・・・・・」

――-中庭に、来てくれ。

「・・・・・・・・・え。」

最後の方は小さくフェードアウトしていたから微かにしか聞こえなかったものの、どう考えてもそう言っていた。

え、え、え、え。えええ?そ、それって・・・・・・・・!!!

「じ・・・じゃ、俺待ってっから!!」

「えっ!!??」

あまりの恥かしさからにか、少年は言いたい事だけ言うと、パッと踵を返してクラスを出て行ってしまう。

・・・・・・千尋の返事も聞く前に。


待って――――!!昼休みは・・・・・昼休みは・・・・・・・!!!!!

――-ハクと、ご飯を食べる・・・という名目の2人っきりの時間なのに。

口には出せないこの叫びを心の中で叫びながら、授業開始のチャイムが鳴るまで千尋は呆然と突っ立ったままになってしまった。





そして。





ブー・・・・・

カチっ・・・・・

[メールの受信中・・]

パッ

『もうすぐだね。』

ああああ・・・・・・・・・どうしよう〜〜〜〜〜っ!!!!!!

授業終了15分前から始まったハクとのメールへと時は到るのである。

とにかく、何とか誤魔化そうと、まず最初に冒頭の言葉を入れて。

・・・先生のせいにしておけば、ハクも変に思わないよね?

そう願いつつ、入れたのだが――返ってきた返事は。

『用事が終わるまで待っているよ。』

ああああああ!!そんなコト言わないでぇぇ〜〜〜!!

ダラダラダラ・・・っと冷や汗が背中をつたっていく。

まるで、後ろの教室にいるハクに見透かされているかのように。

カチカチカチ・・・・・・

ピッ。

『ううん、いいよ!ハクに悪いもん!明日は、一緒に食べようね ごめんね (;_;)』

・・・・・顔文字で、誤魔化せるかなーー・・・。

またも小さな願いをかけつつも、送信ボタンをカチッと押した。

これで、この話題が終りになるように。

だけど。

返って来た、返事は。

ブー・・・・・

カチカチっ・・・・

[メールの受信完了]

『・・・私に悪いなどと思わなくてもいい。それとも、何か私に知られてはいけない事でもあるのか?』

・・・・・・・・・・・・・・・・やっばーーーい!!!!!

今は授業中なのだが。

このメールを見た瞬間、千尋は今この時。どこにいるのかも分からなくなるほどパニックに陥ってしまった。

ど、ど、どうしようどうすればどうされよう。ああああなんて言ってる場合でなくて!!

この口調。そして、メールからでもヒシヒシと伝わってくるこの感情。これは、まさに。

・・・・・・・怒ってるよ・・・・・。

文章の前に付いた、「・・・」が相乗効果を発している。

とにかく、今日の昼は必ず逃れなくてはいけない。用事を済ませた後にハクとご飯を食べてもいいのだが、人ではない彼のことだからきっと。

『誰かと会っていたね?』

そう、言い当てるに違いない。というか、絶対に分かってしまうであろう・・・千尋が、どんなに隠したとしても。

ええっ・・・・・・な、なんて返そう・・・・・・。ううう・・・・・どうしよう・・・・・・・・・。

数十秒悩んだが、どうにも上手い言い訳が見つからない。

見つからないが、時間は確実に流れていって。気付けば、お昼まで後間もない時間になっていた。

ええい・・・もう、出し逃げしちゃえ!!

カチカチ・・・・・カチカチカチ・・・

『そんなことないよ!ただ、本当にそう思ったの!とにかく、今日は私も一人で食べるから、また明日ね!じゃあね!』

カチッ

[メールの送信中・・・・・送信完了]

・・・・・・・・・・お・・・・送ってしまった・・・・・・・・。

ツツっと背中に一筋の汗が垂れて――-次の瞬間、授業終了の鐘の音が鳴り響いた。

そして。

・・・い、行かなきゃ!!!!!!

千尋は、弾丸のように・・・いや、弾丸よりも早く廊下を駆け抜けて、あの場所へと。

見つかりませんようにっ・・・・・・!

そう願いをかけながら、向かったのであった。



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